words of Kae Touyama web

東山佳永
kae touyama

<文章掲載>
・『ヤマケイ JOY』2010 春号 TokyoALPS 高尾山レポ
・東京都文化発信プロジェクト 学生とアーティストによるアート交流プログラム
 『OPEN THEATRE MUSEUM』P42~47
・『ワンダーフォーゲル』2011 12月号 P46~53雪の八ヶ岳
WANDER VOGEL GUIDE BOOKS 05 『八ヶ岳』P156〜162
『夏掬い』絵本
虹色の国ー全五話ー

しあわせな泡

TEXT of shiawase na awa

二部*言葉と音

-朗読文-

海に出会うと、決まってドキドキする。
それは、恋をしたときととても似ていて、
人を好きになるたびにからだの中に海ができる。
穏やかだったり、嵐がおきたり、満ちたり、引いたりする。
始まりはいつも水面に揺られ、気持ちが良い。

幼い頃、どの物語よりも美しいと思ったのはアンデルセンの人魚姫だった。
どんなにハッピーエンドのお姫様よりも人魚姫になりたいと思い、
でもかわいそうで、悲しくてしかたがなくて、早く彼女の気持ちが知りたかった。

大人になって恋をしたときに、たぶん彼女は悲しんでいただけではないと知った。
泡になった人魚姫は、光の射す海の上へとのぼって、空気になって、
空気のように見えないけれど、確かな想いを持っていた。それはどんなにか幸せなことか。
「しあわせな泡だったんだ」と気付いた時、嬉しさがこみ上げてきた。

そして人の想いは泡のようだと思う。
泡のように儚くて、美しい。
光のほうに上っていって、割れてしまうともう形のないものしか残らない。
けれどそれが一番強く大切なもの。
大切なものはいつだって形がなく、いつだって目に見えない。

恋の終わりにはからだのなかにできた海の底に落ちたみたいだ。
途方にくれるほど暗く、体中強く重たい水圧のようなものに締め付けられて
自分がいっそこのままなくなって、泡になれたらと願う。

この作品は、深い深い青に包まれた、海の底の物語です



にんぎょひめのうた
作詞:東山佳永 作曲:シューヘイ


青く深い海の底
十五の夜を待ちこがれ

波に遊ぶ長い髪 
魚たちを優しくなぞる

いつか見た
空に咲いていた花
花言葉はなんという?

海の上 眩しい夢
彼方へと想いを馳せる


光届かぬこの世界
闇を照らすはチョウチンアンコウ
嵐立つ深い夜
こころ揺れる美しい人

いつの日にか
わたしの細い 
足で大地に舞い踊ろう

空の下 風の中

あなたへと泳ぎすすもう

near,far,near,far

TEXT of near,far,near,far

遠くへの手紙


こころを紙飛行機に乗せて
きみのもとへゆこう。
からだは風船に揺られて
あとからふわりとついていけたらいい。
遠くからはよく見える、きみの心へ会いに。

列車はどんどん速くなって
画面の中ではボタン一つで、世界中どこにでもいけるけれど
本当の近くに行くにはどうやって行けばいいんだろう。

わたしとあなたの距離は、あとどれくらいなんだろう。



白い線と言葉


近付けば近付くほど形が分からなくなったり
見えているつもりで見えていなかったり
見えないほどみようとしたり
わからないほどわかろうとする

今日、明日、明後日、一週間後、一ヶ月後、
記憶の距離はどんどん遠くなって
たまに思い出したり
ふと忘れてしまったり

大切なものはどうか近くに

見える距離も見えない距離も
数えきれないくらいたくさんの線が交差したり繋がっていて
日常(いつも)がある

ここに空気があるように。
今、宇宙の中の地球の上にいるように。

夏掬い

TAXT of natsusukui


夏掬い
作詞:東山佳永 作曲:齋藤紘良


真夏の空に鳥が鳴いてる
真夏の 雲に鳥が隠れて
真夏の影に一休みしよう
真夏の雨に耳を澄ませて

空と海の色が同じならば どこかで交わるようだ

真夏の空に鳥が鳴いてる
真夏の雲に鳥が隠れて
真夏の影に一休みしよう
真夏の雨に耳を澄ませて

いつか雲を掬えると思うんだ 地平線歩いてみるよ
あたりまえなんて君が決めた事さ
空を鳥と歌おう



空の国の約束
作詞:東山佳永 作曲:齋藤紘良


あっちの雲は顔を出した王様
こっちの雲はくじらの散歩
そっちの雲は迷子の船で
どっちの雲もきみに見えるよ

くっつき はなれて 形を変えて
もくもくもくも 空に舞う
毎日めぐる

あっちの雲で白い熊が出た
こっちの雲でむくげが咲いて
そっちの雲は麦藁帽子で
どっちの雲がぼくに見えるの?

くっつき はなれ 形を変えて
もくもくもくも 空に舞う
風の気分で

サンキュー、またねと 想いを伝える
空の国の約束 結んで消える

今日はどこで会えるの?



夜空のひみつ
作詞:東山佳永 作曲:齋藤紘良



一番星を指輪にする
底の見えないこの闇
星の指輪と踊ったら
流れ星になった

またたき きらめく 夜の空

デネブ ベガ アルタイル
どこまでもいける 夜に
スピカ アンタレス
どこまでもいける この夜は
夜に


Play

TEXT of Play


遊ぶための場所
区切られたからこそ生まれたもの
その線は誇り
確立された美しさは外へと広まり
その揺るぎなさに憧れ
その線に触れてみたいと心躍る


空気と身体の境界線 地平線 国境線
隔たりは繋がりを知るために
点と点をつないできた証


無数に存在する線に のったりのらなかったり
ぎりぎりを楽しんだり 絡まったり 結んだり


自ら線を書き、消し、書き換え、
on とoffを繰り返し 今日も線と遊ぼう

おしゃべりな氷屋イチベ

TAXT of ichibe

あるところに一人のおじいちゃんがいました。

その昔、四角い顔に丸めがねをかけていた若い頃、おじいちゃんは恋をしていました。
この長者町からほど近い大津橋のふもとで、
その可愛い彼女とよく待ち合わせをしていたのを今でもよく覚えています。

終戦の年、二人は結婚して、名古屋に小さな家を借りました。

このなにもない時代、どうやって生きていくか… おじいちゃんは考えました。

そしてその小さなお家で、まずは雑貨屋を始めます。

さあ、ここから。

大きく時代が変化していくなか、
それに合わせて小さな家を使い、色々な商売をしていきます。

どろぼうに入られたりしながら続けていた雑貨屋も、
扱っていた軍事用品が手に入らなくなり
次は、漁師である奥さんの実家に頼んで魚を仕入れ、魚屋さんを始めます。

ところが魚がさばけない魚屋さんだったので、徐々に売れなくなってきてしまい、
今度は石炭屋を扱う燃料屋さんに。
時代とともに扱う燃料も石炭からガスに変わりながら、
この商いは長く続いていました。

ある日、燃料を売り歩いていると、
お客さんから「氷を売りにきてほしい」と頼まれました。

「…それもいいなあ。よし、氷屋もやろう!」

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

この続きを聞きたい方は、
シールを一枚身につけて、長者町内を巡ってください。
すると、おしゃべりな氷屋に出会えるかもしれません。

うつりゆく

TAXT of within the still

「生きる」

あなたは生まれた 空からの
光の中 歩き出す 影も知り 見つめ合う
水にふれ 虹が散り 足音が響く
それぞれの世界が入り混じる
つれていかれないように まっすぐにたつ
外にむく 内にいる 透明な間で遊ぶ
風がふく 揺れる 迷う 石を見つける 決める
選ぶ 少しの間漂う まどろむ
変容する 速度を変え 取り巻くものを読む
まねる 育つ 蓄積し 進んでいく
重力と 地球 無数の時空
それを包む 全ての その中にいる
生きている 歩く 脈をうつ
動いている 静止する 残る ゆらぐ
巡り続ける その中にいる
空と地に触れ 形跡を拾う そうして
気がつく 誰かが何かに 私があなたに

2014 9/23


「速度」

あなたと会わない間 私は速さに身を慣らし
次々と変化する風景と たくさんのことや人と出会った
あなたはゆっくりと窓の外の空の表情や
木々や山々の色のうつりかわりに 静かに立ち会っていたのだろう

どんなに強い波も柔らかく受けとめれば
きっと穏やかになってゆく
淡々と揺るぎない速度を保っていたい。

夏の終わりの虫の羽、秋の終わりの木の葉も
ちがう速度でちがう軌跡を辿る

くもり時々晴れ
雲間から射す光が、あなたの服に似ている
水が少し消えていく
姿がなくなって空気になっていく。私たちもいつか。
でも今は触れることができる。
あたたかな温度を感じられる。
ただ、そんなことでも新鮮に思うために
時折あらためて視点を変える。
木の葉の穴から、いつもを眺めてみるように。

2014 11/8

「線」

輪郭が浮き立つ 冬の空気の中へ
外の世界へ あなたを連れていきたい
そう思い あなたの線に触れたら 私もくっきりと個になった
切り離され 関わり合い 様々な線を描いていく
柔らかな線 かたくなな線 
からまってしまったら ほどけばいい
できるのなら 私とあなたは やわらかな曲線で繋がっていたい
いつでも空気を汲みながら 伸ばしたり 縮めたりできるように

違和感を断ったカセットのテープで
影の線をなぞった 午前
思うより早く影が動く もうそこに姿はない
動きだし 気付く
区切られ 個になったからこそ 他者を知る
あなたは私のことを知っているだろうか

降り注ぐ光の中、鳥の羽のように雪が舞い降りる
掴んでも 手のひらで瞬く間に溶けてしまう結晶
あなたやだれかを掴もうとするのと同じだ
姿や形さえ確かなものはなくて
でも見えないものを信じていたいと思う

遠くても 近くても 通じ合えるように
ほつれても ちぎれても あなたとは結び続けよう

2015 1/17


「内と外」

封筒に入っていた白いテープで
この間切ったカセットテープを繋いだ

そしてあなたとわたしが共にした時間とモノを
繋いだテープで囲った

円の中にあなたと私
水や木の葉、虫の羽、石に、音に、はさみ 関わった全てもの
円の球の星の中 出会ったものごとを取り入れて
内に集積し 外に反映し 姿となった

身体はこの透明なグラスのよう
生まれる前に選んだグラスに取り入れて 
形づくり 変化していく 常に

意識は内と外を行き来する 両側から見つめる
内側で起こる感情 外側で見える形 
あなたと過ごし知っていく

外だと思っていた場所からさらに外があることに気がつくと
”あいだ”を見つけた  透明な余白

天と地やあなたと私や内と外のあいだ
世界を豊かにしてしたのは この”あいだ”
ならばそのあいだを繋げるために踊っていよう

今は同じ形の私とあなたも
内と外とそのあいだを行き来して
なにかに出会い うつりゆく
次に再び会う時は きっと今と少し違う

2015 2/21